列車の中で

爽やかな秋晴れの日、街に出るために電車に乗って、空いていた四人掛けボックス席に一人で座った。
窓の外を流れていく景色を清々しい気分で眺めていたのだが、ある駅でたくさん人が乗ってきて、外国人ファミリーらしき観光客に囲まれることになってしまった。

私の横とその前に、50代くらいのオバサンが大きなスーツケースを片手で支えつつ座り、真ん前は幼い女の子が座った。外国人に囲まれるとなんとなく面倒くさい感じがするのはなんでだろうか、と思いながら女の子を見ると、こっちを見ていたので、にっこりする。子どもはかわいい。

オバサンたちが中国語で話し始めて、ああ、と気づいた。何を言ってるのかわからない会話が間近で続くと、不安とまではいかないけれど落ち着かない気分になるし、何か話しかけられても意思の疎通ができるだろうかとか思うから、面倒くさいような気分になるのだな。理解可能な言語でくだらない話を続けられても、うんざりするけれども。

女の子と笑顔の応酬的なことを続けていると、オバサンたちが喜んで、話しかけたいという雰囲気が伝わってきた。何を言うのだろうかと思っていたら
、How old are you? だったので、は?となった。予想だにしない質問。。

英語で答えたが、彼女たちはそれほど話せるわけでもなさそうで、わからないようだった。んー…と考えて、指で表現してみたが、これも伝わらず、どうしようかと思ううち、メモ帳がある!と気づいて筆談。年が割と近いことが判明し、カタコトの会話と笑顔が少し続いた。

程なく目的地が近づいて、降りようとすると、オバサンたちは満面の笑顔で何か言いながら手を振ってくれた。昔からの友達にするように。
ちょっと驚いたのと、すごくうれしかったのと、終着駅なのに降りる気配のない彼女達に、終着駅だから降りなければと伝えても理解されず焦ったのとが一度に来て、笑顔で手を振り返しつつ混乱した。

別の所に居たらしいお連れの人達に呼ばれて、やっと彼女達も気が付いたようだったからそのまま降りたけど、Have a nice day! くらいのことは言えばよかったなと後で思った。(混乱してたのだ。)

失礼ながら、体型的にも服装のセンス的にもまったくぱっとしないオバサンたちだったのに、別れ際の笑顔と振った手からとても暖かいものが放射されて、私の心に強烈な印象を残したのだ。

人と人との繋がりとは、国や民族や性別やそういったソトガワのものとは無関係であるという、以前から知っていたことを、新たに強烈に体感した十数分の出来事だった。

壁を造るのは自分の心。いつも爽やかに風通しよくしておきたい。